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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
4 薬理学的知識
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鎮痛補助薬
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各鎮痛補助薬の特徴
1. 抗うつ薬
[作用機序・特徴] 中枢神経系のセロトニン、ノルアドレナリン再取り込みを阻害し、下行性抑制系を賦活することによって鎮痛効果を発揮する。鎮痛効果の発現は、通常の抗うつ作用が発現するとされている週単位よりも早く、投与開始1 週間以内に効果発現し、かつ、うつ病の治療量よりも低用量で抗うつ作用を示さずに鎮痛効果が認められる。
 選択的セロトニン再取り込み阻害剤(selective serotonin reuptake inhibitor;SSRI)、セロトニンとノルアドレナリンの両方の作用をあわせもつSNRI (serotonin noradrenaline reuptake inhibitor;SNRI)も鎮痛補助薬として有用な可能性が示唆する知見があるが、現在のところ一致した見解は得られていない。
[副作用] アミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬では、眠気、抗コリン作用(口内乾燥、便秘、排尿障害、霧視など)、起立性低血圧、せん妄がみられる。重篤な副作用としては心毒性があり、鎮痛効果を示す投与量ではまれであるが、用量依存的であり、高齢者や多剤併用の場合にリスクが高まる。
 パロキセチン、フルボキサミンなどのSSRIにおいては、投与開始時に嘔気、食欲不振の発現頻度が高く、その他の副作用として頭痛、不眠、興奮などがある。
2. 抗けいれん薬
[作用機序・特徴] 主な作用機序として、
  • 神経細胞膜のNa+チャネルに作用し、Na+チャネルを阻害することにより、神経の興奮を抑制する。
  • GABA受容体に作用し、過剰な神経興奮を抑制する。
  • 興奮性神経の前シナプスに存在する電位依存性Ca2+チャネルのα2δサブユニットに結合し、Ca2+流入を抑制し、神経興奮を抑える。
などが考えられる。
 さらに、ベンゾジアピン系で抗けいれん薬としても使用されるクロナゼパムは、GABAニューロンの作用を特異的に増強する。
 抗けいれん薬は、薬物相互作用を来す薬剤が多く、多剤併用に注意を要する。ガバペンチンは肝臓での代謝をほとんど受けないため、薬物相互作用の影響を受けにくいという利点がある。
[副作用] 抗けいれん薬に共通する副作用として眠気、ふらつきがあるが、副作用の発現を抑えるためには低用量から開始することが望ましい。特徴的な副作用としては、以下のものがある。
 バルプロ酸では肝機能障害、高アンモニア血症を来すことがあるため、定期的な肝機能検査を行い、意識障害を認めた場合には血中アンモニア値の測定を行う。
 フェニトインでは、肝機能障害、皮膚症状(Stevens-Johnson 症候群)、運動失調が知られる。また、体内動態が非線形型であることから、増量の際に急激に血中濃度が上昇する場合があるため注意を要する。
 カルバマゼピンでは、心刺激伝導の抑制作用があるため、重篤な心障害(第Ⅱ度以上の房室ブロック、高度の徐脈)のある患者は禁忌であるほか、骨髄抑制が認められるため化学療法・放射線治療・全身性骨転移で汎血球減少を来たしている患者では原則として使用しない。
 ガバペンチンでは、眠気、めまいなどがあり、腎機能低下により排泄が遅延されるため、特に腎機能により投与量の調節が必要である。
Stevens-Johnson症候群
高熱を伴う口唇、眼結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部における重篤な粘膜病変。皮膚の紅斑・びらんを伴い、しばしば水疱、表皮剥離などの壊死性障害を認める。原因の多くは医薬品とされるが、発症機序は明らかではない。
3. 局所麻酔薬/抗不整脈薬
[作用機序・特徴] リドカイン、メキシレチンは、Vaughan-Williams抗不整脈薬のクラスIb群に位置づけられており、Na+ チャネルを遮断するという電気生理学的な作用機序が考えられている。末梢神経の神経障害性疼痛では、損傷した神経においてNa+チャネルの量、質が変化し、正常ではないNa+チャネルが発現し神経が過敏になることが関係している。全身投与されたリドカインは、正常な神経伝達を遮断せずに、これらのNa+チャネルを遮断し、神経の過敏反応を抑制する。また、C線維からの刺激により活性化する脊髄後角のニューロンの活動性を抑え、脊髄後根神経節の発火を抑えることにより、過剰な活動電位を抑制する。
 メキシレチンは、肝初回通過効果が小さく、腸管からの吸収が良好であり、生体内利用率が約90%と高いために、経口で効果が期待できる。
[副作用] リドカインは、刺激伝導抑制作用と心筋抑制作用を有するため、重篤な刺激伝導障害のある患者には禁忌である。リドカインの心血管系の副作用としては、血圧低下、徐脈などがある。重大な副作用としては、中枢神経系の症状(不安、興奮、耳鳴、振戦、末梢知覚異常など)があり、高濃度では意識消失、全身けいれんを引き起こすこともある。抗不整脈薬としての有効域は、1.5〜5.0μg/mLとされ、10μg/mL以上で副作用が発現しやすくなる。これらの副作用は用量依存的であるが、全身状態の低下したがん患者では少量でも生じることがあるので、十分な観察を行う。また本剤はCYP3A4で代謝され、活性を有する代謝物の蓄積が神経毒性を引き起こす。
 メキシレチンもまた、重篤な刺激伝導障害のある患者には禁忌である。その他の副作用としては、嘔気・嘔吐、食欲不振、胃部不快症状などの消化器症状の出現頻度が高い。
4. NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体拮抗薬
[作用機序・特徴] NMDA受容体は、グルタミン酸受容体のサブタイプの一つで、中枢性感作1やワインドアップ現象2の形成など、痛みなどの侵害情報伝達に重要な役割を果たしている(P16,Ⅱ-1-1 ③神経障害性疼痛の項参照)。神経障害性疼痛の発生には、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸が遊離され、NMDA受容体を活性化することも関与している。オピオイドの鎮痛耐性3に拮抗し、鎮痛効果を増強する。
 ケタミンは、従来、麻酔薬として使用されてきたが、帯状疱疹後神経痛、幻肢痛を含むさまざまな神経障害性疼痛を緩和する。本邦で入手可能なケタミン製剤は、静注・筋注製剤であり、2007年から麻薬指定となった。
 その他、鎮咳薬のデキストロメトルファン、抗パーキンソン薬・抗A型インフルエンザウィルス薬のアマンタジン、脳循環・代謝改善薬であるイフェンプロジルなどがこの分類に含まれるが、臨床上の有用性についての知見は限られている。
[副作用] ケタミンは、脳圧を亢進させるため、脳血管障害、高血圧、脳圧亢進症、重症の心代償不全の患者には禁忌である。主な副作用として、眠気、ふらつき、めまいがある。重大な副作用として急性腎不全、呼吸抑制、けいれんなどがあり、特徴的な症状として、幻覚、悪夢などの中枢性作用が知られる。
1:中枢性感作
興奮状態にある末梢神経からは二次ニューロンに刺激を伝える興奮性アミノ酸のグルタミン酸(Glu)が放出されるが、感作された末梢神経からはGluに加えてサブスタンスPやニューロキニンAといったタキキニンも放出される。これにより電位依存性Ca2+チャネルからCa2+が放出されるとNMDA受容体が活性化する。その結果、神経細胞が過敏化し、痛覚過敏やアロディニアが発生する。P16 参照。
2:ワインドアップ現象
繰り返し痛みの刺激が加わると、痛覚神経終末(脊髄後角部)で伝達物質放出が増加し、最初の痛み情報が次に送られてくる痛み情報を増幅し、次第に痛みが増強する現象。
3:鎮痛耐性
初期に投与されていた薬物の用量で得られていた鎮痛効果が時間経過とともに減退し、同じ鎮痛効果を得るためにはより多くの用量が必要になること。
5. 中枢性筋弛緩薬
[作用機序・特徴] バクロフェンは、GABAB受容体の作動薬であり、三叉神経痛、筋痙縮、筋痙性疼痛などに使用される。作用機序としては、シナプス前のカルシウム濃度を低下させ、興奮性アミノ酸の放出を減少させ、後シナプスではカリウムの伝導性を増加させて神経の過分極を起こす。
[副作用] バクロフェンの主な副作用は、めまい、眠気、消化器症状である。中枢神経系に作用するため、重大な副作用として、意識障害、呼吸抑制などがある。腎排泄であるため腎機能低下時に注意が必要であり、また突然の中止により、離脱症候群(幻覚、興奮、けいれんなど)を呈することがあるため、中止に際しては漸減が必要である。
GABAB受容体
中枢神経系ニューロンや星状細胞に発現しているγ-アミノ酪酸(GABA)受容体の一つ。GABAB受容体はG蛋白共役型として機能する。GABAB受容体を介して作用する薬剤に三環系抗うつ薬などがある。
6. コルチコステロイド
[作用機序・特徴] 骨転移痛、腫瘍による神経圧迫、関節痛、頭蓋内圧亢進、管腔臓器の閉塞などによる痛みに使用される。作用機序は明確ではないが、痛みを感知する部位の浮腫の軽減、コルチコステロイド反応性の腫瘍の縮小、侵害受容器の活動性低下(プロスタグランジン、ロイコトリエンを主とする炎症物質の軽減)などとされる。
 鎮痛補助薬としては、作用時間が長く、電解質作用が比較的弱いベタメタゾン、デキサメタゾンが広く使用される。プレドニゾロンを代替薬として使用することもある。
[副作用] 主な副作用として、口腔カンジダ症、高血糖、消化性潰瘍、易感染性、満月様顔貌、骨粗しょう症、精神神経症状(せん妄や抑うつ)などがある。投与が長期に及ぶに従い、副作用の頻度も高くなるため、高齢者や合併症を有するハイリスク患者の場合、生命予後を含めて投与開始時期についての十分な検討が必要である。
電解質作用
電解質のバランスを調整する作用。ステロイドは血中のNaを増加させ、Kを減少させる作用がある。Naの増加は血圧の上昇、Kの減少は脱力感や心不全などを引き起こすことがある。作用の強弱はステロイドの種類により異なる。
7. ベンゾジアゼピン系抗不安薬
[作用機序・特徴] ベンゾジアゼピン系抗不安薬の作用機序としては、大脳辺縁系、視床、視床下部などに作用し鎮静作用をもたらすとされている。この際に、特異的なベンゾジアゼピン受容体(GABAA受容体6-Clチャネル複合体)に作用し、抑制性神経伝達物質であるGABAAの親和性を高め、Clチャネルの開口により過分極を起こし、神経膜の興奮性が抑制される。また、脊髄反射抑制により、筋の過緊張を緩和するとされている。ジアゼパムは、筋痙縮の痛みに使用される。
[副作用] ジアゼパムの主な副作用は、眠気、ふらつき、筋弛緩作用である。特に高齢者に対して、ジアゼパムのような長時間作用型薬を使用する場合は、作用が遷延することがあるので、少量から開始し、十分な観察が必要である。
GABAA受容体
γ-アミノ酪酸(GABA)受容体の一つ。GABAA受容体はClイオンチャネル型として機能する。ベンゾジアゼピン系薬剤などはGABAB受容体を介して作用し、鎮静、抗けいれん、抗不安などの作用をもつ。
8. ビスホスホネート
[作用機序・特徴] 骨転移痛に使用されるビスホスホネート製剤の基本骨格は、無機のピロリン酸塩の誘導体であり、破骨細胞の活動を抑制し、骨吸収を阻害することにより鎮痛効果を得る。効果は用量依存性である。
[副作用] 主な副作用は、嘔気、めまい、発熱、急性腎不全などであるが、重篤な副作用として顎骨壊死・顎骨骨髄炎が出現することがある。報告された症例のほとんどが抜歯などの歯科処置や局所感染に関連して発現しており、悪性腫瘍、化学療法、コルチコステロイド治療、放射線治療、口腔内の不衛生、歯科処置の既往歴が要因として挙げられる。必要に応じて適切な歯科検査を行い、本剤投与中は、侵襲的な歯科処置はできる限り避けること、患者に十分な説明を行い、異常が認められた場合には、直ちに歯科・口腔外科を受診するよう注意することが必要である。また、急速点滴により腎不全が出現することがあるため、投与速度にも注意し、投与開始前に腎機能検査を実施し、腎機能による投与量を調節する。
9. その他
 消化管閉塞による痛みに対するオクトレオチド、ブチルスコポラミン臭化物など、特定の痛みに使用する上記以外の薬剤についてはⅢ章推奨の本文を、作用機序・特徴については他項を参照されたい。
(久原 幸、高田慎也)

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