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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
4 薬理学的知識
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非オピオイド鎮痛薬
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非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)
1. 薬理学的特徴
 NSAIDsはステロイド構造以外の抗炎症作用、解熱作用、鎮痛作用を有する薬物の総称である。
[作用機序] NSAIDsの主な効果は、炎症がある局所におけるプロスタグランジン(prostaglandin;PG)の産生阻害である。組織が損傷されると、ホスホリパーゼA2により、細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が遊離される。遊離されたアラキドン酸はシクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase;COX)やペルオキシダーゼを含むPGH(prostaglandin H)合成酵素複合体の基質となり、PGG2、PGH2 へと変換される。さらに各組織に特異的なPG合成酵素によりPGE2( prostaglandin E2)など種々の化学伝達物質が合成され、損傷組織へ放出される。PG自体に発痛作用はないが、ブラジキニンなどの発痛物質の疼痛閾値を低下させる。また、局所での血流増加作用や血管透過性の亢進、白血球の浸潤増加など、炎症を増強させる作用を有する。したがって、NSAIDsは遊離されたアラキドン酸からPGを合成する経路の律速酵素であるシクロオキシゲナーゼの働きを阻害することにより抗炎症・鎮痛作用を発揮する(図4)。
 また、発熱時には種々のサイトカインの産生が促進され、視床下部にある体温調節中枢におけるPGE2の合成を増加させ体温を上昇させるように視床下部に働きかける。NSAIDsは発熱時に産生されるPGE2の合成を阻害することで、解熱作用をもたらす。
[作用時間] アスピリンはシクロオキシゲナーゼの活性部位をアセチル化して不可逆的に阻害する。このためアスピリンの作用時間は種々の標的組織でシクロオキシゲナーゼが発現し、置き換わる速度と関係する。他のNSAIDsはシクロオキシゲナーゼの活性中心においてアラキドン酸と可逆的に拮抗して、その働きを阻害するために、作用時間は薬物の血中濃度半減期に依存する。
[シクロオキシゲナーゼアイソザイム選択性] シクロオキシゲナーゼ(COX)には、COX-1とCOX-2の2つのアイソザイムが存在する。COX-1は大部分の正常細胞や組織に定常的に発現し、身体機能の維持に関与している。一方、COX-2は炎症に伴いサイトカインや炎症メディエーターによって誘導されるが、腎臓や脳の特定の領域では定常的に発現している。胃粘膜の上皮細胞ではCOX-1が定常的に発現しており、細胞保護効果をもつPG の産生に関わっている。国内で利用可能なNSAIDsはいずれも程度の差はあるものの、COX-1およびCOX-2のどちらの活性も抑制する。選択的COX-2阻害薬としてセレコキシブがあり、比較的COX-2阻害の選択性が高いものにエトドラク、メロキシカムがある。
図4 アラキドン酸の代謝経路
図4 アラキドン酸の代謝経路
2. 副作用
 NSAIDsの副作用は共通してみられるものと、個々のNSAIDsに特異的にみられるものがある。共通する主な副作用を表10 に示す。
表10 NSAIDsに共通する一般的な副作用 
部位等 考えられる機序の一部
備考
腹痛、嘔気、食欲不振、胃びらん・潰瘍、胃腸管出血、穿孔、下痢 胃粘膜上皮細胞でのCOX-1の阻害によるPGI2、PGE2などの減少
水・電解質貯留、高K血症、浮腫、間質性腎炎、ネフローゼ症候群 腎におけるCOXの阻害によるPG減少に伴う腎血流量と糸球体濾過速度の減少
肝機能検査値異常、肝不全 ジクロフェナク、スリンダグなど特に注意
血小板 血小板活性化阻害、出血の危険増加 血小板でのCOX-1の阻害によるTXA2 の減少に伴う血小板凝集能の低下
子宮(妊娠時) 妊娠期間の延長、分娩阻害 COXの阻害に伴うPGE2、PGFの減少
妊娠後期では、NSAI Ds 禁忌
胎児の動脈管閉鎖 COXの阻害に伴うPGの減少
不耐(過敏)症 血管(運動)神経性鼻炎、血管浮腫、喘息、じんま疹、気管支喘息、潮紅、低血圧、ショック COXの阻害に伴うLT類の合成増加
中枢神経系 頭痛、めまい、錯乱、抑うつ、けいれんの閾値低下 けいれんの閾値低下:脳内でのGABAの受容
体結合阻害
皮膚・粘膜 皮疹、光過敏症(特にフェニルプロピオン酸系)、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死症 光毒性
免疫・アレルギー的反応など
1)胃腸障害
 消化性潰瘍形成は、ヘリコバクター・ピロリ感染やアルコールの過剰摂取、コルチコステロイドや抗凝固目的の低用量アスピリン併用などの粘膜損傷因子により危険度が高まる。NSAIDsによる胃腸障害には、胃粘膜上皮細胞におけるCOX-1阻害によって引き起こされる粘膜細胞保護効果をもつPGI2、PGE2などの減少が深く関わっている。選択的COX-2阻害薬は従来のNSAIDsより胃潰瘍発症の頻度が低いとされている。また経口投与時には、NSAIDsが胃粘膜に直接接触することでの局所刺激も関与している。
 胃潰瘍の予防薬として、プロスタグランジン製剤(ミソプロストール)、プロトンポンプ阻害薬、高用量のH2受容体拮抗薬などが使用されている。
2)腎機能障害
 うっ血性心不全、腹水を伴う肝硬変、慢性腎疾患、または循環血流量が減少している患者では腎血流量と糸球体濾過速度が減少し急性腎不全を起こすことがある。腎機能障害がある患者や高齢者に投与する際は、十分な注意をする必要がある。
3)肝機能障害
 肝機能障害の発症は投与開始数カ月後に起こるのが特徴とされる。肝細胞酵素の血中の値は増加するが、明らかな黄疸はまれである。使用薬物の中止により可逆的に回復する。
4)血小板、心血管系障害
 NSAIDsはシクロオキシゲナーゼを阻害し、トロンボキサンA2の血小板形成を抑制するため血小板機能が障害され、出血傾向が現れることがある。血小板では主にCOX-1が発現しているため、選択的COX-2阻害薬では血小板機能障害が軽減される。
 心血管障害の発症増加のリスクは、選択的COX-2阻害薬であるコキシブ系薬剤の大規模臨床試験で明らかとなった。さらに、非選択的なCOX阻害薬である従来のNSAIDs(アスピリンを除く)でも報告されている。
5)アスピリン不耐(過敏)症
 アスピリンやその他のNSAIDsに過敏で、血管浮腫、全身性じんま疹、気管支喘息、咽頭浮腫、ショックなどのさまざまな症状を示す場合がある。アスピリン不耐(過敏)症の症状はアナフィラキシーとも類似しているが、免疫反応ではなくシクロオキシゲナーゼの阻害が関わっていると考えられている。

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