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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
4 薬理学的知識
1
オピオイド
9
オピオイドによる副作用と対策−その他の副作用と対策
1.
  • オピオイドによる眠気は投与開始初期や増量時に出現することが多いが、耐性が速やかに生じ、数日以内に自然に軽減ないし消失することが多い。
  • 相互作用を含む他の薬物、感染症、肝・腎機能障害、中枢神経系の病変、高カルシウム血症など、他の原因を除外する必要がある。
  • モルヒネの場合は腎機能低下によるM6Gの蓄積が原因となることがある。
策]
  • 痛みがなく強度の眠気がある場合は、オピオイドを減量する。眠気のためにオピオイドの増量が困難な場合は、オピオイドローテーションを検討する。
2. せん妄・幻覚
  • がん患者においては、さまざまな要因でせん妄1などの認知機能障害が出現するといわれており、原因を鑑別する必要がある。
  • オピオイドによる幻覚、せん妄は投与開始初期や増量時に出現することが多い。
  • オピオイド以外の原因薬剤としてベンゾジアゼピン系抗不安薬、抗コリン薬2などには特に注意が必要である。
  • オピオイドを含む薬剤性のせん妄は、原因薬剤の投与中止により数日から1 週間で改善する場合が多い。
  • 非薬剤性の要因として、電解質異常、中枢神経系の病変、感染症、肝・腎機能障害、低酸素症などが関与していることがある。
策]
  • オピオイドが原因薬剤である可能性が疑われる場合は、オピオイドの減量やオピオイドローテーションを検討する。
  • 薬物療法としてブチロフェノン系抗精神病薬3(ハロペリドールなど)、非定型抗精神病薬(クエチアピン)の投与を検討する。
  • せん妄を生じている患者が安心できる環境の調整を行う。
1:せん妄
周囲を認識する意識の清明度が低下し、記憶力、見当識障害、言語能力の障害などの認知機能障害が起こる状態。通常、数時間から数日の短期間に発現し、日内変動が大きい。
2:抗コリン薬
アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合するのを阻害する薬剤で、副交感神経を抑制する。作用が強い薬剤ではせん妄や幻覚などが現れやすい。
3:ブチロフェノン系抗精神病薬
強力なドパミンD2受容体阻害作用をもつ、定型抗精神病薬の一系列。代表的な薬剤としてハロペリドールなど。
3. 呼吸抑制
  • オピオイドによる呼吸抑制は、用量依存的な延髄の呼吸中枢への直接の作用によるもので、二酸化炭素に対する呼吸中枢の反応が低下し、呼吸回数の減少が認められる。
  • 一般的にはがん疼痛の治療を目的としてオピオイドを適切に投与する限り、呼吸数は低下しないか、または呼吸数が低下しても1回換気量が増加するので低酸素血症になることはまれである。ただし、急速静注などの投与法で血中濃度を急激に上昇させた場合や疼痛治療に必要な量を大きく上回る過量投与を行った場合には起こりうる副作用である。したがって、過量投与とならないように、効果と副作用を確認しながら増量を行う必要がある。またモルヒネ投与中、急激に腎機能が低下すると、M6Gの蓄積により呼吸抑制を生じる可能性がある。
  • 痛みそのものがオピオイドの呼吸抑制と拮抗するとされており、外科治療や神経ブロックなどにより痛みが大幅に減少あるいは消失した場合には、相対的にオピオイドの過量投与の状態が生じ、呼吸抑制が発現する場合がある。
  • 呼吸抑制が生じる前には眠気を生じるため、眠気を観察し、眠気が生じた段階で鎮痛手段の見直しと評価を行うことが重要である。
策]
  • 酸素投与、患者の覚醒と呼吸を促す。
  • 重篤な場合には、薬物療法としてオピオイド拮抗薬であるナロキソンを使用する。ナロキソンはオピオイドに比べ半減期が短く、作用持続時間は約30分である。そのため、症状の再燃にあわせて30〜60分毎に複数回投与する必要がある。ナロキソンにより痛みの悪化、興奮、せん妄を生じることがあるため、少量ずつ(1回量として0.04〜0.08mg)使用する。
4. 口内乾燥
  • オピオイドは、用量依存的に外分泌腺における分泌を抑制する。
  • 進行がん患者の口内乾燥の発生頻度は30〜97%とされる。その背景として、①唾液分泌の減少(頭頸部への放射線照射、三環系抗うつ薬、抗コリン薬など)、②口腔粘膜の障害(化学療法や放射線治療による口内炎、口腔カンジダ症)、③脱水などが考えられる。
策]
  • 可能であれば投与量の減量、口内乾燥を生じる薬物の変更を行う。
  • 頻回に水分や氷を摂取する、部屋を加湿するなど水分と湿度の補給を行い、人工唾液や口腔内保湿剤を使用する。
  • 唾液分泌能が残っている場合、キシリトールガムを噛むなど、唾液腺の分泌促進を試みる。
5. 瘙痒感
  • オピオイドの硬膜外投与やくも膜下投与では、他の投与経路に比して瘙痒感が高率に認められる。この反応では脊髄後角のオピオイド受容体を介した機序が考えられている。
策]
  • 第一世代の抗ヒスタミン薬の投与が一般的に行われているが、無効であることが多い。
  • オンダンセトロンなど5-HT3受容体拮抗薬が有効な場合がある。
  • 外用剤としては亜鉛華軟膏、サリチル酸軟膏や0.25〜2%のメントールの混合製剤が有用とされている。
  • 擦過による皮膚障害が強い場合は、弱〜中等度のコルチコステロイド外用剤の使用も考慮する。強コルチコステロイド外用剤の長期投与は、皮膚の萎縮や二次感染を生じることがあるため、短期の使用にとどめるべきである。
  • 二次的な感染を最小限にするために、爪を短く切った手で軽くこする、手袋を着用するなど、日常行動の教育も重要である。
  • 症状の改善がみられない場合はオピオイドローテーションを検討する。
6. 排尿障害
  • オピオイドの投与により尿管の緊張や収縮を増加させることがある。
  • オピオイドは排尿反射を抑制し、外尿道括約筋の収縮および膀胱容量をともに増加させる。
  • 排尿障害は高齢の男性に多く認められ、前立腺肥大症の患者では尿閉に至る場合もあり注意が必要である。
策]
  • 薬物療法として排尿筋の収縮を高めるコリン作動薬や、括約筋を弛緩させるα1受容体遮断薬1の投与が行われることがある。
7. ミオクローヌス
  • オピオイド投与時にミオクローヌス2が発現することがある。
  • ミオクローヌスとは、1つあるいは複数の筋肉が短時間であるが不随意に収縮するものである(四肢がピクッとするなど)。
  • モルヒネの場合、神経毒性のある代謝物の蓄積が要因の一つと考えられている。
策]
  • 薬物療法としてはクロナゼパム、ミダゾラムなどが有効な場合がある。
  • オピオイドローテーションを検討する。
8. 痛覚過敏(hyperalgesia)
  • 痛覚過敏(hyperalgesia)とは、通常痛みを感じる刺激によって誘発される反応が、通常よりも強くなった状態のことをいう(P16,Ⅱ-1-1 ③神経障害性疼痛の項参照)。
  • 大量のオピオイドを硬膜外投与することにより、まれに生じることがあるといわれている。
  • 原因として、オピオイド代謝物などの関与が考えられている。
  • オピオイドが原因の痛覚過敏の状態ではオピオイドを増量すると痛みが悪化する。
  • オピオイドの増量に伴い急激に痛みが増強する場合は痛覚過敏の可能性を考慮する。
策]
  • オピオイドの減量または中止、オピオイド以外の鎮痛薬、オピオイドローテーションを検討する。
(岡本禎晃、小宮幸子、加賀谷肇)
1:α1受容体遮断薬
3つに分類されるアドレナリン受容体(α1、α2、β)のうち、α1受容体のみに遮断作用を示す薬剤。α1受容体は主に血管・尿路などの平滑筋に存在する。高血圧・排尿障害などが主な適応症である。
2:ミオクローヌス
不随意運動の一種。1つあるいは複数の筋肉が同時に素早く収縮する。全身あるいは特定の部位にだけに起こる場合がある。

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