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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
4 薬理学的知識
1
オピオイド
6
各オピオイドの薬理学的特徴(表4)
1. 麻薬性鎮痛薬
1)モルヒネ
[作用機序]
 代表的なオピオイドであるモルヒネは、μオピオイド受容体に対する選択性が比較的高く(δ、κオピオイド受容体よりも数倍〜数十倍)、その作用のほとんどがμオピオイド受容体を介して発現する。
[吸収・代謝・排泄] 経口投与されたモルヒネは、胃腸管から吸収される。速放性経口製剤は、約0.5〜1.3時間で最高血中濃度に到達する。また、徐放性経口製剤は、約1.9〜7.3時間で最高血中濃度に到達する。吸収されたモルヒネは肝初回通過効果により代謝され、生体内利用率1は19〜47%(平均25%)である。全身循環に到達したモルヒネは、グルクロン酸抱合により、約44〜55%がモルヒネ-3-グルクロニド(M3G)に、約9〜10%がモルヒネ-6-グルクロニド(M6G)に代謝され、8〜10%が未変化体(モルヒネ)として尿中から排泄される。M6GおよびM3Gは、ほとんど腎臓から排泄される(表5)。
[特 徴] モルヒネは、多くのがん疼痛緩和ガイドラインにおいて、豊富な使用経験などから第一選択薬として推奨されている。また、経口や静脈内、直腸内、皮下、硬膜外、くも膜下腔内へ投与できる。モルヒネの代謝物であるM6Gは強力な鎮痛作用を有しており、また、脳移行性がモルヒネよりも低く、ゆっくりと血液脳関門を通過するために、作用持続時間が長い。一方、もう一つの代謝物であるM3Gは、オピオイド受容体に対してほとんど親和性をもたず、鎮痛作用は示さないが、がん疼痛患者へモルヒネを大量投与した際に認められる痛覚過敏2やアロディニア3の発現に関与している可能性が示唆されている。主な副作用として、嘔気・嘔吐、便秘および眠気がある。
2)フェンタニル
[作用機序]
 フェンタニルは、フェニルピペリジン関連の合成オピオイドであり、麻酔補助薬として使用されてきた。μオピオイド受容体に対する選択性が非常に高く、完全作動薬として作用する。フェンタニルの鎮痛効果は、モルヒネと類似しており、静脈内投与した場合、フェンタニルの鎮痛作用はモルヒネの約50〜100 倍である。
[吸収・代謝・排泄] 経皮吸収型製剤(フェンタニル貼付剤)の生体内利用率は計算上57〜146%(平均92%)である。初回貼付後1〜2時間で血中にフェンタニルは検出され、17〜48時間で最高血中濃度に到達する。貼付2回目以降に定常状態に到達する。フェンタニルはほとんど肝臓で代謝され、主にチトクロムP4504のCYP3A4により、ノルフェンタニルに代謝される。ノルフェンタニルは非活性代謝物である。フェンタニルは脂溶性が高く、血液脳関門を速やかに移行する(表5)。
徴] フェンタニルは、経皮、静脈内、皮下、硬膜外、くも膜下腔内へ投与することができる。静脈内投与したフェンタニルが最大鎮痛効果に達する時間は約5分とモルヒネや他のオピオイドと比較して速効性がある。脂溶性が高く比較的分子量が小さいため、皮膚吸収が良好であり、貼付剤としても使用されている。副作用として、モルヒネと同様に、嘔気・嘔吐があるが、便秘および眠気は比較的弱い。
1:生体内利用率
投与した薬物の何%が生体内(血中)に取り込まれ、無駄なく活用されるかという薬物の利用率(吸収率)。生物学的利用率、バイオアベイラビリティ(bioavailability)ともいう。
2:痛覚過敏(hyperalgesia)
痛覚に対する感受性が亢進した状態。通常では痛みを感じない程度の痛みの刺激に対して痛みを感じること。
(参考) 痛覚鈍麻(hypoalgesia)痛覚に対する感受性が低下した状態。通常では痛みを生じる刺激に対して痛みを感じない・感じにくいこと。
3:アロディニア(allodynia)
通常では痛みを起こさない刺激(「触る」など)によって引き起こされる痛み。異痛(症)と訳される場合があるが、本ガイドラインでは、アロディニアと表現した。
4:チトクロムP450
ほとんどすべての生物に存在する酸化酵素。ヒトでは現在約50種が報告され、CYP3A4、CYP2A6(CYP=cytochrome)などがある。肝臓に多く存在し、薬物代謝の主要な酵素。
3)オキシコドン
[作用機序]
 オキシコドンは、半合成テバイン誘導体であり、強オピオイドに分類される。その薬理作用は主にμオピオイド受容体を介して発現する。
[吸収・代謝・排泄] 速放性経口製剤は約1.7〜1.9時間で最高血中濃度に到達する。また、徐放性経口製剤は約4.0時間で最高血中濃度に到達する。経口オキシコドンの生体内利用率は約60%(50〜87%)である。チトクロムP450のCYP2D6およびCYP3A4により、ノルオキシコドンおよびオキシモルフォンに代謝される。ノルオキシコドンは、主代謝物であるが、非活性代謝物である。また、オキシモルフォンは鎮痛活性を示すが、そのAUC〔薬物血中濃度(時間)曲線下面積〕は、オキシコドンAUC の約1.4%とごく微量である。オキシコドンはほとんど肝臓で代謝されるが、約5.5〜19%が未変化体として尿中から排泄される(表5)。
AUC(area under the drug concentration time curve)
薬物血中濃度(時間)曲線下面積。薬物血中濃度を経時的に表した曲線グラフと時間軸(横軸)に囲まれた部分の面積。血中に取り込まれた薬の量(吸収率)の指標として用いる。
4)コデイン
[作用機序]
 コデインのオピオイド受容体に対する親和性は低く、その鎮痛効果はコデインの一部がO-脱メチル化されたモルヒネによるものである。
[吸収・代謝・排泄] 経口製剤は肝初回通過効果が少なく、約0.8時間で最高血中濃度に到達する。コデインのオピオイド受容体への親和性は低いが、コデインが肝臓で代謝されると、約10%がチトクロムP450のCYP2D6によりモルヒネとなり、鎮痛効果をもたらす。白人の約3.2〜10%、日本人の約0.7%はCYP2D6活性が低く(poor metabolizers)、モルヒネがほとんど生成されないため、コデインの鎮痛効果は発揮されにくい(表5)。
徴] コデインは鎮咳作用を有し、これはコデインそのものの作用である。WHOの分類では弱オピオイドに分類され、中等度までの痛みの治療に使用され、モルヒネの1/6〜1/10の鎮痛作用を有している。副作用として、主に嘔気・嘔吐、便秘および眠気がある。
5)トラマドール
[作用機序]
 トラマドールはコデイン類似の合成化合物であり、その鎮痛効果は、μオピオイド受容体に対する弱い親和性とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用をあわせもつことで発揮されると考えられている。トラマドールの代謝物であるモノ-O-脱メチル体は、μオピオイド受容体に対して未変化体よりも高い親和性を有するため、トラマドールの鎮痛作用の一部に寄与すると考えられている。
[吸収・代謝・排泄] トラマドール経口剤の生体内利用率は約75%であり、中枢移行性も良好である。主に肝臓チトクロムP450 のCYP2D6 およびCYP3A4で代謝され、O-デスメチルトラマドールおよびN-デスメチルトラマドールに変換され、腎よりトラマドールとして約30%、代謝物として約60%が排泄される。O-デスメチルトラマドールは、μオピオイド受容体に作用しトラマドールの数倍の鎮痛効果を発揮する(表5)。
徴] トラマドールは、WHO方式がん疼痛治療法の第二段階薬群に分類されている。作用発現時間および持続時間はモルヒネと同程度である。トラマドールはその作用機序から神経障害性疼痛に効果的であることが報告されている。便秘、嘔気・嘔吐の発生頻度は低い。けいれん発作を引き起こすことがある。
表4 各オピオイドのオピオイド受容体タイプに対する結合親和性(結合しやすさ)
オピオイド μ受容体 δ受容体 κ受容体
モルヒネ +++   +
フェンタニル +++    
オキシコドン +++    
コデイン +    
トラマドール +    
ペンタゾシン ++(P) + ++
ブプレノルフィン +++(P) ++(P) +++(P)
(P)部分作動薬であることを示す
※トラマドール自体に結合親和性はなく、代謝物が部分作動薬として作用する
表5 オピオイドの代謝
オピオイド 主な代謝
部位
未変化体尿中排
泄率(腎排泄率)
物質としての
半減期
主な代謝経路 代謝物(鎮痛活性の有無)
モルヒネ 肝臓 約8〜10% 約2〜4時間 グルクロン酸抱合 M6G(有)
グルクロン酸抱合 M3G
フェンタニル 肝臓 約10% 約4時間 CYP3A4 ノルフェンタニル(無)
オキシコドン 肝臓 約5.5〜19% 約3.5〜4時間 CYP3A4 ノルオキシコドン(無)
CYP2D6 オキシモルフォン(有)
コデイン 肝臓 約3〜16% 約2.5〜3.5時間 CYP2D6 モルヒネ(有)
トラマドール 肝臓 約30% 約6時間 CYP2D6 O-デスメチルトラマドール
(有)
ペンタゾシン 肝臓 約5〜8% 約2〜3時間 グルクロン酸抱合 グルクロン酸抱合ペンタゾシングルクロニド
(無)
ブプレノルフィン 肝臓 約1% 約2時間 CYP3A4 ノルブプレノルフィン
(有:弱い)
※鎮痛活性はないが神経毒性を有しているとの報告もある
2. 麻薬拮抗性鎮痛薬
 オピオイド作動薬が存在しない状況では作動薬として作用するが、オピオイド作動薬の存在下ではその作用に拮抗する作用をもつ鎮痛薬。
1)ペンタゾシン
[作用機序]
 ペンタゾシンはκオピオイド受容体に対して作動薬として作用し、μオピオイド受容体に対しては拮抗薬1もしくは部分作動薬2として作用する。ペンタゾシンは鎮痛、鎮静、呼吸抑制を含めモルヒネなどのオピオイドとほぼ類似する作用を示す。その鎮痛作用は主にκオピオイド受容体を介して発現するが、一部μオピオイド受容体も介している。また、鎮痛作用の天井効果3を有する。
[吸収・代謝・排泄] 経口製剤は約2.0時間で最高血中濃度に到達する。未変化体で腎より排泄されるペンタゾシンは5〜8%であるため、ほとんど肝臓で代謝され、主な代謝経路はグルクロン酸との抱合である。代謝物には活性は存在しない(表5)。
[特 徴] モルヒネを長期間投与されている患者に対して、ペンタゾシンを投与するとμオピオイド受容体拮抗作用により離脱症候4や鎮痛効果低下を引き起こす可能性がある。嘔吐はモルヒネほどはみられないが、不安、幻覚などの精神症状が発現することがある。
1:拮抗薬
受容体に作用して、他の生体内物質などが受容体に結合することを妨げる薬物。拮抗薬自体は受容体を活性化する作用をもたず、生体応答を起こさない。遮断薬、アンタゴニストともいう。
2:部分作動薬
受容体と結合して、受容体を活 性状態にする薬剤を作動薬(アゴニスト)といい、このうち受容体に結合するが、100%の活性 化を引き起こさない薬。
3:天井効果(ceiling effect)
ある程度の量以上、投与量を増やしても鎮痛効果が頭打ちになること。有効限界ともいう。
4:離脱症候/離脱症候群
臨床では薬物の突然の休薬による身体症状を離脱症候群(withdrawal syndrome)と表現することが一般的である。退薬症状、退薬徴候ともいわれるが、本ガイドラインにおいては、ガイドラインを使用する医療従事者の混乱を避けるため、本文を通して離脱症候/離脱症候群に統一して使用する。
2)ブプレノルフィン
[作用機序]
 ブプレノルフィンはμオピオイド受容体に対して作動薬として作用し、κオピオイド受容体に対しては拮抗作用を示す。モルヒネより25〜50倍強い効力をもち、モルヒネと類似する作用を示すが、天井効果を有する。ブプレノルフィンは、オピオイド受容体に対して親和性が高く、かつ高い脂溶性をもつため、受容体からの解離が緩やかであり、長時間の作用(約6〜9時間)を示す。
[吸収・代謝・排泄] 坐剤は約1.0〜2.0時間で最高血中濃度に到達する。ブプレノルフィ ンは主に肝臓で代謝され、チトクロムP450のCYP3A4によりノルブプレノルフィンに代謝さ れる(表5)。
[特 徴] ブプレノルフィンは直腸内、静脈内、皮下へ投与することができる。注射において2mg/日で天井効果がみられるため、強オピオイドに変更する必要がある。ブプレノルフィンは、μオピオイド受容体に対する親和性がモルヒネよりも強いため、大量にモルヒネを投与している患者にブプレノルフィンを投与すると、μオピオイド受容体に結合できるモルヒネと競合するために、総合的に鎮痛効果が弱まる可能性がある。主な副作用として、嘔気・嘔吐、便秘および眠気がある。

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