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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
4 薬理学的知識
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オピオイド
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オピオイドとは何か:薬理学的特徴
1. オピオイドとは
 オピオイド(opioid)とは、麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などのアルカロイドおよびモルヒネ様活性を有する内因性または合成ペプチド類の総称である。
 紀元前よりケシ未熟果から採取されたアヘン(opium)が鎮痛薬として用いられ、19世紀初頭には、その主成分としてモルヒネが初のアルカロイドとして単離された。1970年代には、オピオイドの作用点として受容体が存在することが証明され、初めて薬物受容体の概念として導入された。その後、内因性モルヒネ様物質の探索が行われ、エンケファリン、エンドルフィン、ダイノルフィン、最近ではエンドモルフィンなどが単離・同定された。1990年代には、μ、δおよびκオピオイド受容体の遺伝子が単離精製(クローニング)され 、その構造や機能が分子レベルから明らかにされている。
2. オピオイド受容体の構造と情報伝達(図1)
 μ、δおよびκオピオイド受容体は、すべてGTP結合蛋白質(G蛋白質)1と共役する7回膜貫通型受容体(GPCR)である。これらオピオイド受容体タイプ間の相同性は高く(全体で約60%)、特に細胞膜貫通領域では非常に高い。いずれの受容体も基本的にGi/o蛋白質2と関連しており、オピオイド受容体活性化により、さまざまな細胞内情報伝達系が影響を受けることにより、神経伝達物質の遊離や神経細胞体の興奮性が低下するために神経細胞の活動が抑制される(図1)。
 一方、近年、モルヒネによる鎮痛効果発現における興奮性神経伝達の関与も示され、下行性抑制系3の直接的活性化や、細胞内情報伝達系を活性化することで鎮痛効果を発現していることも明らかにされている(図1)。
 モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルは、すべてμオピオイド受容体に対する親和性が高いものの、それぞれの薬物間において、認められる薬理作用に違いがあることが知られている(P43,Ⅱ-4-1-6各オピオイドの薬理学的特徴の項参照)。これらの薬物間における薬理作用の違いに関しては、さまざまな見解がなされており、μオピオイド受容体はμ1およびμ2受容
体、δオピオイド受容体はδ1およびδ2受容体、κオピオイド受容体はκ1、κ2、κ3受容体などのサブタイプの存在が提唱されてきた。しかし、μ、δおよびκオピオイド受容体をコードする遺伝子はそれぞれ1 種類しか存在しないため、スプライスバリアント4依存性サブタイプやオピオイド受容体の多量体化5に対する修飾の差異、あるいはオピオイド受容体に対する立体構造変形に基づいたリガンド6依存性サブタイプなどの新しい仮説(ligand biased efficacy仮説7)が提唱されている。
1:GTP結合蛋白質(G蛋白質)
GTPアーゼに属するグアニンヌクレオチド結合蛋白質の略称。膜受容体関連ヘテロ三量体G蛋白質と低分子量G蛋白質があるが、ここでは前者の三量体G蛋白質を指す。三量体G 蛋白質はα、βおよびγサブユニットからなり、G蛋白質共役型受容体が刺激されるとαサブユニットに結合しているGDPとGTPの交換反応が起こり、GTP結合型αサブユニットとβγサブユニットに解離する。これらのサブユニットは、それらの標的蛋白質・酵素を活性化し、シグナルを下流へと伝達する。
2:Gi/o蛋白質
三量体Gタンパク質はαサブユニットの機能および遺伝子の相違から、Gs、Gi 、Go、Gq、Gt 、Golfなどのサブファミリーに分類されている。Giはアデニル酸シクラーゼを抑制し、Goは神経組織に多く発現している。また、Gi/o蛋白質から解離したβγサブユニットは、K+チャネルの開口促進、Ca2+チャネルの開口抑制といった細胞内応答を引き起こす。
3:下行性抑制系
脳から脊髄を下行し、痛覚情報の伝達を抑制する系。脳から脊髄へ神経伝達物質のノルアドレナリンとセロトニンが放出されて抑制する。
4:スプライスバリアント
RNA前駆体中のイントロンを除去し、前後のエクソンを再結合する行程で生じる多様なmRNAにより生成される蛋白質群。
5:受容体の多量体化
細胞膜に存在する受容体は、1分子によっても、細胞外の刺激を受容し、その情報を細胞内へ伝達することが可能であるが、複数の分子が会合(多量体化)することで、異なった細胞内情報伝達分子が活性化されるため、多彩な情報伝達が可能になっている。
6:リガンド
受容体や酵素に結合し、生物活性を引き起こす物質。酵素に対する基質、補酵素、薬物(受容体作動薬や遮断薬)、ホルモン、サイトカイン、神経伝達物質など。
7:ligand biased efficacy仮説
薬物(リガンド)の結合する受容体が同一であっても、リガンドと受容体が形成する複合体の立体構造が異なるために、活性化される細胞内応答がリガンドに依存して異なるという仮説。
3. オピオイド受容体を介した薬理作用(図1・表1)
 モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど多くのオピオイドによる鎮痛作用は、主にμオピオイド受容体を介して発現する。μオピオイド受容体を介した鎮痛作用は、脊髄における感覚神経による痛覚伝達の抑制や視床や大脳皮質知覚領域などの脳内痛覚情報伝導経路の興奮抑制といった上行性痛覚情報伝達の抑制に加え、中脳水道周囲灰白質、延髄網様体細胞および大縫線核に作用し、延髄−脊髄下行性ノルアドレナリンおよびセロトニン神経からなる下行性抑制系の賦活化などによる。また、μオピオイド受容体は扁桃体や帯状回、腹側被蓋野、側坐核などの部位に高密度に存在していることから、情動制御にも深く関わっている。さらに、その他の中枢神経系作用として呼吸抑制作用(延髄呼吸中枢の直接抑制作用)、鎮咳作用(孤束核咳中枢への知覚入力抑制)、催吐作用〔延髄化学受容器引き金帯(chemoreceptor trigger zone;CTZ)への直接作用〕などが、末梢神経系への作用として消化管運動抑制作用(腸管膜神経叢でアセチルコリン遊離抑制)などが知られている。
 δおよびκオピオイド受容体の活性化によっても、μオピオイド受容体の活性化と同様に鎮痛作用が認められる。しかし、μオピオイド受容体の活性化は多幸感(報酬効果1)が生じるのに対して、κオピオイド受容体では嫌悪感を引き起こし(中脳辺縁ドパミン神経前終末抑制によるドパミン遊離抑制)、モルヒネなどによる精神依存2を抑制する。また、δおよびκオピオイド受容体の活性化による呼吸抑制作用は、μオピオイド受容体によるものと比べ弱い。
(大澤匡弘、中川貴之、成田 年)
1:報酬効果
脳内の報酬系(ドパミン神経系)が、欲求が満たされたときや報酬を得ることを期待して行動しているときに活性化し、快の感覚(多幸感、陶酔感など)を与える効果。
2:精神依存
次のうちいずれか1つを含む行動によって特徴づけられる一次性の慢性神経生物学的疾患。①自己制御できずに薬物を使用する、②症状(痛み)がないにもかかわらず強迫的に薬物を使用する、③有害な影響があるにもかかわらず持続して使用する、④薬物に対する強度の欲求がある。P55参照。
図1 オピオイドリガンドとオピオイド受容体を介した細胞内情報伝達系
図1 オピオイドリガンドとオピオイド受容体を介した細胞内情報伝達系
オピオイド受容体の細胞内情報伝達系はμ、δおよびκオピオイド受容体の間に大きな差は存在しないため、すべてのオピオイド受容体の細胞内情報伝達をまとめて記載した。なお、オピオイド受容体はすべて7回膜貫通型のG蛋白質共役形受容体であり、その細胞内情報伝達系はG蛋白質を介して進行する。図中のPIP2はホスファチジルイノシトール二リン酸を、IP3はイノシトール三リン酸を示す。また、各脳部位でのオピオイドによる薬理作用を図下にまとめた。
表1 オピオイド受容体サブタイプの特徴とリガンド 
受容体タイプ μオピオイド受容体 δオピオイド受容体 κオピオイド受容体
薬理作用
 鎮痛作用
 鎮静作用
 消化管運動抑制
 呼吸抑制
 咳嗽反射抑制
 情動性
 徐脈
 利尿作用

++
++
++
+
+
+
+
−(抗利尿)

+
+
+

−(悪化)
+
−(頻脈)

++
++
+

+
−(嫌悪感)
+
+
細胞内情報伝達 cAMP産生↓・Ca2+チャネル↓・K+チャネル↑(Gi/o α依存的)
PLC活性化・PKC活性化(Gβγ依存的)
cAMP産生↓・Ca2+チャネル↓・K+チャネル↑(Gi/o α依存的)
PLC活性化・PKC活性化(Gβγ依存的)
cAMP産生↓・Ca2+チャネル↓・K+チャネル↑(Gi/o α依存的)
主な発現部位 大脳皮質、線条体、視床、視床下部、中脳、橋- 延髄(青斑核、孤束核)、脊髄、一次感覚神経など 大脳皮質、線条体、側坐核、中脳など 線条体、側坐核、視床、視床下部、中脳、橋- 延髄(青斑核、孤束核)、脊髄など

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