line
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

目次にもどる

2章 背景知識
2 痛みの包括的評価
2
痛みの評価
 痛みの評価は、日常生活への影響、痛みのパターン、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの経過、痛みの性状、痛みの増悪因子・軽快因子、現在行っている治療の反応、レスキュー・ドーズの効果と副作用に分けて行う。以下に各項目の評価のポイントについて述べる。
1. 日常生活への影響
 疼痛治療についての総合的な評価を行うために、痛みにより日常生活にどの程度支障を来しているのかをまず確認する。特に睡眠への影響については必ず聞くようにする。次に、どの程度の対応を希望しているかを確認する。具体的には、「痛みに関しては、今の生活で満足されていますか? それとも痛みで日常生活に支障があって何か対応したほうがいいですか?」と聞くとよい。症状が患者にとって許容できるものなのか、それとも対応したほうがよいかという評価はSupport Team Assessment Schedule日本語版(STAS-J1)でも用いられている評価方法で、症状への対処の必要性について評価することができる(表1)。
1:STAS-J
英国で開発された評価尺度(Support Team Assessment Schedule;STAS)の日本語版。「痛みのコントロール」「患者の不安」などの9項目を医療者が0〜4の5段階で評価する。『STAS-J症状版』もある。P27参照。
表1 STAS-J
0 なし
1 時折のまたは断続的な単一の痛みで、患者が今以上の治療を必要としない痛みである。
2 中等度の痛み。時に調子の悪い日もある。痛みのため、病状からみると可能なはずの日常生活動作に支障を来す。
3 しばしばひどい症状がある。痛みによって日常生活動作や物事への集中力に著しく支障を来す。
4 持続的な耐えられない激しい痛み。他のことを考えることができない。
2. 痛みのパターン
 痛みのパターンは、1日の大半を占める持続痛と、一過性の痛みの増悪である突出痛とに分けられる。痛みのパターンを知ることは治療方針の決定に役立つ。例えば、持続痛の場合には鎮痛薬の定期投与や増量、突出痛の場合にはレスキュー・ドーズを使うなど、そのパターンによって治療方針が異なるからである。具体的には、「痛みは1日中ずっとありますか? そ
れとも、たいていはいいけれど、時々ぐっと痛くなりますか?」といったように聞く(P18,Ⅱ-1-2 痛みのパターンによる分類,図3 参照)。
1:突出痛(breakthrough pain)
持続痛の有無や程度、鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一過性の痛みの増強。P18参照。
3. 痛みの強さ
 痛みの強さ(程度)は治療効果判定の意味からも初診時に評価しておくことが重要である。一番強い時の痛み、一番弱い時の痛み、1日の平均の痛みに分けて評価するとよい。評価法としてはさまざまなツールが開発されているが、信頼性、妥当性ともに検証され、臨床の場で用いられているものは、Numerical Rating Scale(NRS)、Visual Analogue Scale(VAS)、Verbal Rating Scale(VRS)である(図2)。
 NRS は、痛みを0から10の11段階に分け、痛みが全くないのを0、考えられるなかで最悪の痛みを10として、痛みの点数を問うものである。VASは、100mmの線の左端を「痛みなし」、右端を「最悪の痛み」とした場合、患者の痛みの程度を表すところに印を付けてもらうものである。VRSは3段階から5段階の痛みの強さを表す言葉を数字の順に並べ(例:痛みなし、少し痛い、痛い、かなり痛い、耐えられないくらい痛い)、痛みを評価するものである。
 これら3者では、VASが他に比べて使用するのが難しく、筆記用具が必要であるため、また、VRSは言語の問題や、段階が少なく痛みを詳細に評価できない可能性があることから、一般的にはNRSが推奨される。
 Faces Pain Scale(FPS)は、図2 に示したような現在の痛みに一番合う顔を選んでもらうことで痛みを評価するものであり、3歳以上の小児の痛みの自己評価において有用性が報告されている。しかし、痛み以外の気分を反映する可能性や段階が少なく痛みを詳細に評価できない可能性があることなどが指摘されている。
 痛みの程度を軽度、中等度、高度と分けるという考え方があり、NRSにおいてそれぞれのカットオフ値について検討されている。しかし例えば、Serinらは1〜4を軽度、5〜6を中等度、7〜10を高度、Givenらは1が軽度、2〜4が中等度、5〜10が高度といったように基準はさまざまであり、統一した見解は得られていない。このガイドラインでは、NCCNのガイドラインと同様に、専門家の合意として1〜3を軽度、4〜6を中等度、7〜10を高度と便宜的に定める。
図2 痛みの強さの評価法
図2 痛みの強さの評価法
1)医療者による痛みの強さの評価
 医療者が痛みの強さを判定するために代理評価を行う場合には、信頼性・妥当性の確認された尺度としてSupport Team Assessment Schedule日本語版(STAS-J)がある。これは表1に示したような0〜4の5段階で症状の程度を医療者が評価する方法である6)。なお、STASは主要項目として「痛みのコントロール」「症状が患者に及ぼす影響」「患者の不安」「家族の不安」「患者の病状認識」「家族の病状認識」「患者と家族のコミュニケーション」「医療専門職種間のコミュニケーション」「患者・家族に対する医療専門職とのコミュニケーション」の9項目からなる評価尺度であり、ここで紹介したのは「痛みのコントロール」についての部分である。もともとはclinical audit(臨床監査)1のためのツールとして開発されたものであり、患者に負担をかけずに評価を行うことができるという利点がある。
2)自分で痛みを訴えられない患者の痛みの強さの評価
 痛みは主観的なものであるので、自らが伝えた痛みを評価することが標準的な評価方法である。NRS、VAS、VRSはいずれもMini-Mental State Examination(MMSE)2が18点以上の軽度の認知機能低下患者において使用することが可能であることが示されている。NRSとVRSは、さらに10〜17点の中等度の認知機能低下患者においても使用が可能であり、認知機能低下患者においてはNRSまたはVRSを用いるのがよいとされている。
 これらの評価尺度が使用できない場合には、Abbey pain scale(Abbey)、Checklist of Nonverbal Pain Indicators(CNPI)、Non-communicative Patient’s Pain Assessment Instrument (NOPPAIN)、Doloplus 2などさまざまな評価尺度が開発されているものの、現時点では本邦において日本語に翻訳され、信頼性、妥当性が検証されているものはない。痛みの評価には、患者の、①表情、②声や話し方、③体の動き、④様子や行動、他人との関わりの変化、⑤日常生活パターンの変化、⑥精神状態の変化――を観察することが参考になる。
1:clinical audit(臨床監査)
クリニカルオーディット。診断・治療・ケア、およびその成果、患者のQOLなどに関して、質の高い診療が行われているかどうかを多面的・包括的に評価すること。
2:Mini-Mental State Examination(MMSE)
認知機能や記銘力を測定する11項目からなる検査。30点満点で、21点以下の場合には認知症などの認知力障害がある可能性が高いと判断される。
4. 痛みの部位
 ボディチャートに痛みの部位を記録する。帯状疱疹、蜂窩織炎、外傷など、がんと関連しない痛みが合併することがあるので、身体所見や画像検査所見などから、痛みの原因となる病変の有無を確認する必要がある。
5. 痛みの経過
 いつから痛みが存在するようになったかを確認し、以前からある痛みかどうかを確認する。突然の痛みの出現は、骨折、消化管穿孔、感染症、出血などのオンコロジーエマージェンシーである可能性があるので、必要に応じて合併症の検索を行う必要がある。
オンコロジーエマージェンシーに関係した痛み
  • 脊髄圧迫症候群、硬膜外転移
  • 体重支持骨の骨折または切迫骨折
  • 脳転移、軟髄膜転移
  • 感染症に関係した痛み
  • 消化管の閉塞・穿孔・出血
6. 痛みの性状
 痛みの性状は、痛みが体性痛、内臓痛、神経障害性疼痛であるかを判断する参考となる。神経障害性疼痛は「灼けるような」、「ビーンと走るような」、「槍で突き抜かれたような」痛みのことがある(P14,Ⅱ-1 がん疼痛の分類・機序・症候群の項参照)。
7. 痛みの増悪因子と軽快因子
 痛みを強くする、または緩和する要因についても質問する。これによって、痛みが増悪する原因となるような刺激を避け、痛みを緩和する方法を取り入れることができる(P18,Ⅱ-1-2 (2)突出痛の項参照)。
 痛みに影響する要因には以下のようなものがある。
  • 増悪因子:夜間、体動、食事、排尿・排便、不安・抑うつなど
  • 軽快因子:安静、保温、冷却、マッサージなど
8. 現在行っている治療の反応
 現在行っている疼痛治療の反応を確認する。定期的な鎮痛薬として何を使用しているか、指示どおり服用できているかを確認する。
 疼痛治療の副作用として、嘔気、便秘、眠気について確認する。嘔気は、「なし」「あり(経口摂取可能)」「あり(経口摂取不可能)」、便秘は「なし」「あり(便の硬さは普通、硬い、軟らかい)」、眠気は「なし」「あり(不快ではない)」「あり(不快である)」などと具体的に聞く。
 嘔気、便秘、眠気がある場合には、本ガイドラインの「Ⅲ-2 オピオイドによる副作用」(P150)を参照して治療を行う。
9. レスキュー・ドーズの効果と副作用
 疼痛増悪時に使用する薬剤が処方されている場合には、その使用回数、効果と副作用を確認する。効果は痛みの強さの評価を行った評価尺度(NRS、VASなど)、または、鎮痛薬の効果を評価する尺度(pain relief scale:完全に良くなった、だいたい良くなった、少し良くなった、変わらないの4段階で鎮痛薬の効果について患者自身が判断する方法)などを用いて評価する。
 同時にレスキュー・ドーズを使用したことによる副作用についても評価する。特に、使用後に眠気が「なし」「あり(不快ではない)」「あり(不快である)」かを聞く。「あり」の場合には、本ガイドラインの「Ⅲ-2 オピオイドによる副作用」(P150)を参照して対応する。
 図3はこれらの評価項目をまとめた医療者が記入する評価シートの一例である。
(山本 亮)
【参考文献】
1)
Williamson A. Pain: a review of three commonly used pain rating scales. J Clin Nurs 2005; 14: 798-804
2)
Caraceni A, Cherny N, Fainsinger R, et al. Pain measurement tools and methods in clinical research in palliative care: recommendations of an Expert Working Group of the European Association of Palliative Care. J Pain Symptom Manage 2002; 23: 239-55
3)
Whaley L, et al. Nursing Care of Infants and Children, 3th ed, St. Louls, Mosby, 1987
4)
Serlin RC, Mendoza TR, Nakamura Y, et al. When is cancer pain mild, moderate or severe? Grading pain severity by its interference with function. Pain 1995; 61: 277-84
5)
Given B, Given CW, Sikorskii A, et al. Establishing mild, moderate, and severe scores for cancerrelated symptoms: how consistent and clinically meaningful are interference. based severity cutpoints? J Pain Symptom Manage 2008; 35: 126-35
6)
Miyashita M, Matoba K, Sasahara T, et al. Reliability and validity of Japanese version STAS(STAS-J). Palliat Support Care 2004; 2: 379-85
7)
Closs SJ, Barr B, Briggs M, et al. A comparison of five pain assessment scales for nursing home residents with varying degrees of cognitive impairment. J Pain Symptom Manage 2004; 27: 196-205
8)
Herr K, Bjoro K, Decker S. Tools for assessment of pain in nonverbal older adults with dementia: a state-of-the-science review. J Pain Symptom Manage 2006; 31: 170-92
図3 痛みの評価シートの例
図3 痛みの評価シートの例

目次にもどる