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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
2 痛みの包括的評価
 痛みの包括的評価は、①痛みの原因の評価と②痛みの評価からなる。「痛みの原因の評価」とは、身体所見や画像検査から痛みの原因を診断することであり、疼痛治療に加えて原因に対する治療が必要かどうかの判断などに役立てることができる。「痛みの評価」とは、患者の自覚症状としての痛みの強さや生活への影響、治療効果を評価するものであり、これを行うことで、患者に合わせた疼痛治療を計画することができるようになる。
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痛みの原因の評価
 がん患者の痛みのすべてががんによる痛みとは限らない。身体所見、画像所見、血液検査所見などを組み合わせ、痛みの原因について総合的に判断することが重要である。さらに、緊急の医学的対応が必要な「オンコロジーエマージェンシー」を見逃さないようにすることも重要である(P20,Ⅱ-1-3 痛みの臨床的症候群の項参照)。
1. 身体所見
 まず患者の全身状態をおおまかに評価する。皮膚色、体重減少の有無、全身衰弱、筋痙縮や筋萎縮などについて観察する。不安や恐れ、抑うつがみられないかについても注意を払う必要がある。全身状態を評価した後、疼痛部位の診察を行う。
1)
 皮膚転移や帯状疱疹、褥瘡など皮膚に痛みの原因がないかを調べる。内臓の関連痛の場合、異常のある臓器が侵害刺激を入力する脊髄レベルの皮膚に色調の変化や立毛筋の収縮、発汗異常などの交感神経刺激症状を認めることがある。したがって、皮膚が侵害刺激を入力する脊髄レベル(デルマトーム)を理解しておくことが重要である(図1)。姿勢についても注意を払っておく必要がある。例えば股関節を屈曲位で保持し、股関節伸展にて痛みを訴える場合には、悪性腸腰筋症候群1を念頭におき評価を進めていく必要がある。
図1 デルマトーム
図1 デルマトーム
2)
 痛みのある部位の触診を行い、痛みの原因となる病変がないか評価する。また、痛みのある皮膚の感覚異常を、痛みのない部位と比較して評価する。痛覚過敏は鈍針による刺激で、アロディニア(allodynia)2は刷毛やティッシュで皮膚表面を触れることで評価する。内臓の関連痛においては、関連領域の筋収縮や、腹壁への炎症の波及に伴う圧痛を認める。骨転移では、転移部位に圧痛や叩打痛を認める。転移部位が神経を刺激している場合には、障害神経支配領域の異常感覚3(paresthesiaやdysethesia)を触診によって確認することができる。
3)筋力低下の評価
 脊髄や神経根の障害で、筋力低下の原因となる脊髄レベルの同定に必要である。徒手筋力テストが標準的な方法だが、簡便に筋力低下を診断する方法として、上肢の近位筋の筋力低下は両上肢を挙上して「バンザイ」ができるかどうかによって、上肢の遠位筋は手の握力で、下肢の近位筋はしゃがんで手を使わずに立ち上がることができるかどうかをみるといった方法がある。
1:悪性腸腰筋症候群
腸腰筋内の悪性疾患の存在により起こる鼠径部・大腿・膝の痛み。身体所見として、患側の第1〜4腰椎神経領域の神経障害、腸腰筋の攣縮を示唆する股関節屈曲固定がみられる。P21参照。
2:アロディニア(all odyni a)
通常では痛みを起こさない刺激(「触る」など)によって引き起こされる痛み。異痛(症)と訳される場合があるが、本ガイドラインでは、アロディニアと表現した。
3:異常感覚
自発的、または、誘発性に生じる痛みではない異常な感覚。不快を伴わない場合を『異常感覚【不快を伴わない】、paresthesia』、不快を伴う場合を『異常感覚【不快を伴う】、dysesthesia』と区別する。P16参照。
2. 画像所見
 画像検査の診断能力には、疾患や病変により感度、特異度の優劣があるので、想定される病変の部位によって適切な検査方法を選択する必要がある。さらに患者の状態に応じて、検査を行うことのメリットとデメリットをよく考えたうえで検査計画を立てていく必要がある。
 例えば、腹部の痛みがある場合、腹部単純X線写真で、消化管ガス像の分布や小腸ガス、液面形成(ニボー)の有無などから、イレウスや腹水貯留の有無の評価が可能である。さらに、CTやMRIでは腫瘍の大きさや性状、位置、神経叢との関係などをみることが可能であり、痛みと腫瘍の関連について評価することが可能である。
 骨転移による痛みがある場合、単純X線写真では、骨皮質に病変が及んだ場合や、骨塩量が30〜50%低下した場合に初めて所見として検出することができる。骨シンチグラフィは全身の骨の評価を一度に行える利点があるが、感度は高いものの特異度は高くなく、症状や身体所見、他の画像診断と合わせて評価することが重要である。CTは骨、軟部組織の詳細な情報を得ることができるため、特に初期の骨変化の同定に有用な検査方法である。MRIは特に、頭蓋内病変や脊髄・硬膜外病変の検出、脊髄圧迫への椎体転移の関与の評価などで有用性が高い。

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