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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

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2章 背景知識
1 がん疼痛の分類・機序・症候群
2
痛みのパターンによる分類
 痛みは1日の大半を占める持続痛と、突出痛(breakthrough pain)と呼ばれる一過性の痛みの増悪の組み合わせで構成される(図3)。
1. 持続痛
義] 「24時間のうち12時間以上経験される平均的な痛み」として患者によって表現される痛み。
徴] 鎮痛薬により緩和されている持続痛と、鎮痛薬が不十分あるいは痛みの急速な増強のために緩和されていない持続痛がある。治療やがんの進行に伴い持続痛の程度も変化するため定期的な評価が必要である。
2. 突出痛(breakthrough pain)
義] 持続痛の有無や程度、鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一過性の痛みの増強。
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 突出痛には統一した定義がない。当初、「オピオイド投与により持続痛のコントロールされている患者に発生する一過性の痛み」という狭義の解釈がなされていた。その一方で、英国においては定時鎮痛薬の切れ目に出現する痛みを表す言葉であり、ラテン語圏(スペイン、イタリア、フランスなど)には突出痛に対応する言葉がないという問題も明らかになった。そこでヨーロッパ緩和ケア協会は、「持続痛の有無、程度にかかわらず発生する一過性の痛みの増強」という定義を推奨した。本ガイドラインではこの定義を痛みのパターンを表す言葉として用いる。
 ヨーロッパ緩和ケア協会ではepisodic painという表現を用いているが、本邦には対応する適切な言葉がないことから従来から使用されている「突出痛」を使用することとする。
徴] 痛みの発生からピークに達するまでの時間は3分程度と短く、平均持続時間は15〜30分で、90%は1時間以内に終息する。痛みの発生部位は約8割が持続痛と同じ場所であり、持続痛の一過性増悪と考えられている。
図3 痛みのパターン/患者からみた痛み
図3 痛みのパターン/患者からみた痛み
表2 突出痛のサブタイプ
  体性痛 内臓痛 神経障害性疼痛
1 予測できる突出痛 歩行、立位、座位保持などに伴う痛み(体動時痛) 排尿、排便、嚥下などに伴う痛み 姿勢の変化による神経圧迫、アロディニアなどの刺激に伴う痛み
2 予測できない突出痛      
1) 痛みの誘因があるもの
ミオクローヌス、咳など不随意な動きに伴う痛み 消化管や膀胱の攣縮などに伴う痛み(疝痛1など) 咳、くしゃみなどに伴う痛み(脳脊髄圧の上昇や、不随意な動きによる神経の圧迫が誘因となって生じる)
2)痛みの誘因がないもの
特定できる誘因がなく生じる突出痛
3 定時鎮痛薬の切れ目の痛み 定時鎮痛薬の血中濃度の低下によって、定時鎮痛薬の投与前に出現する痛み
※ 痛みの誘因のある、「予測できる突出痛」と、「予測できない突出痛」のうち「痛みの誘因があるもの」をあわせて、「随伴痛」2と呼ぶことがある。
[サブタイプと治療アプローチ] 突出痛は、発症が急速で持続が短いという一般的な特徴がある。いくつかのサブタイプに分類することが提案されているが国際的に定まった分類はない。本ガイドラインでは、治療に反映することができるという点から、「予測できる突出痛」、「予測できない突出痛」、「定時鎮痛薬の切れ目の痛み」の3つに分類する。特徴に合わせた治療を行うことが重要である(表2)。
(1)予測できる突出痛(predictable breakthrough pain)
 予測可能な刺激に伴って生じる突出痛。意図的な体動に伴って生じる痛み(体動時痛)が代表的である。突出痛の誘因となる行為を予防して避けることが重要である。誘因が避けられない場合には30〜60分前にレスキュー・ドーズを使用することで予防するなどの治療を行う。
(2)予測できない突出痛(unpredictable breakthrough pain)
 痛みの出現を予測できない突出痛。痛みの誘因があるがいつ生じるかを予測することができない場合と、痛みを引き起こす誘因そのものがない場合とがある。
① 痛みの誘因があるもの
 ミオクローヌス、咳、消化管や膀胱の攣縮など、意図的ではない体の動きに伴って生じる突出痛。誘因は同定できても出現を予測することができない。迅速なレスキュー・ドーズ対応に加えて、痛みの誘因の頻度を減少させるような病態へのアプローチを行う。
② 痛みの誘因がないもの(誘因のない突出痛, spontaneous pain3)
 痛みの誘因がない突出痛。持続がやや長く、しばしば30分を超えるものがある。痛みの特徴に応じてレスキュー・ドーズが迅速に使用できるような対応を行う。さらに、神経障害性疼痛に伴う発作痛はレスキュー・ドーズのみでは対応が困難な場合が多いので、効果的で副作用の少ない鎮痛補助薬を選択する必要がある。
(3)定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)
 定時鎮痛薬の血中濃度の低下によって、定時鎮痛薬の投与前に出現する痛み。発現が緩徐で持続が最も長い。定時鎮痛薬の増量や、投与間隔の変更を考慮する。
(冨安志郎)
【参考文献】
1) Payne R. Recognition and diagnosis of breakthrough pain. Pain Med 2007; 8: S3-7
2) McCarberg BH. The treatment of breakthrough pain. Pain Med 2007; 8: S8-13
1:疝痛(colicky pain)
消化管の攣縮に伴う痛み。ぜん動痛と呼ばれることがある。
2:随伴痛(incident pain)・体動時痛(pain with movement, movement-related pain)
一般的に、「incident pain」とは「特定の動作や兆候に伴って生じる痛み」を指し、動作に伴って生じる痛み(体動時痛、動作痛;pain with movement, movement-related pain)としばしば区別せずに用いられてきた。
しかし、「特定の動きや兆候」には、歩行や立位など随意的な動作ばかりではなく、随意的ではないミオクローヌスや咳、内臓の攣
縮も含まれうるため混同が生じている。
本ガイドラインでは、暫定的に、随伴痛(incident pain)を「特定の動作や兆候に伴って生じる痛み」、体動時痛を「意図的な体動に伴って生じる痛み」と定義する。
すなわち、随伴痛とは、何らかの動作や兆候に伴って生じる痛みすべて含む概念とし、体動時痛は随伴痛の一部とした。
「随伴痛」という言葉は混同されやすいため、ガイドライン本文では記載を避けた。
3:誘因のない突出痛(spontaneous pain)
spontaneous painとは、特定できる誘因がなく生じる突出痛を指す言葉であり、idiopathic painと呼ばれることもある。本ガイドラインでは、「誘因のない突出痛」と訳した。

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