line
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

目次にもどる

1章 はじめに
3 推奨の強さとエビデンスのレベル
1
エビデンスのレベル
 本ガイドラインでは、「エビデンスのレベル」を、「治療による影響がどれくらいかを推定した時の確実さの程度」と定義した。エビデンスのレベルは、委員会の合意に基づき、研究デザイン、研究の質、結果が一致しているか(consistency)、研究の対象・介入・アウトカムは想定している状況に近いか(directness)から総合的に臨床疑問ごとに判断した。エビデンスのレベルは、AからCに分けられており、それぞれ、「結果はほぼ確実であり、今後研究が新しく行われたとしても結果が大きく変化する可能性は少ない」、「結果を支持する研究があるが十分ではないため、今後研究が新しく行われた場合に結果が大きく変化する可能性がある」、「結果を支持する質の高い研究がない」ことを示す(表1)。
 研究デザインは、エビデンスのレベルを決定するための出発点として使用し、表2の区別をした。
 研究の質は、割り付けの隠匿、盲検化、追跡期間など研究そのものの質を指す。
 結果が一致しているか(consistency)は、複数の研究がある場合に、研究結果が一致しているかを指す。
 研究の対象・介入・アウトカムが想定している状況に近いか(directness)は、本ガイドラインの根拠となる研究を評価する際には特に問題となった。すなわち、対象(がん患者を対象としていない、痛みの種類が異なるなど)、介入(同じ種類の薬物での試験はあるが同じ薬物での試験はない、投与量が国内で使用される投与量と異なるなど)、アウトカム(消化管閉塞や骨合併症がアウトカムの研究結果を痛みの根拠としてよいか)の点について、結果を推奨の直接の根拠とすることができない場合が多かった。特に、対象については、緩和ケアの領域では、痛みなど症状の原因や病態による分類が確立していないため、均一の病態を対象とした研究は非常に限られていた。これらの研究をすべて除外して検討する選択もあるが、本ガイドラインでは、より適切な推奨を行うためには、類似のまたは均一ではない対象から得られた結果を問題に適用できるかを個々に検討することが望ましいと考えた。
 例えば、対象に関しては、がん疼痛を対象として非オピオイド鎮痛薬をオピオイドと併用することにより痛みが緩和する複数の無作為化比較試験がある(エビデンスレベルA)が、この知見は突出痛に限定して実施された試験ではないため、突出痛ではエビデンスレベルはCとした。非がん患者の神経障害性疼痛に対して多くの鎮痛補助薬が鎮痛に有効であるとのメタアナリシスがある(エビデンスレベルA)が、がん患者には必ずしも当てはまるわけではないと考え、エビデンスレベルはBとした。
 介入に関しては、モルヒネの徐放性製剤と速放性製剤とで鎮痛効果に差がないとするメタアナリシスがある(エビデンスレベルA)が、使用量は国内で一般的に使用される量よりも高用量が使用されているため、国内での一般的な使用量での結果には当てはまらない可能性があるためエビデンスレベルはBとした。がん疼痛に対してNSAIDsが鎮痛効果を示すというメタアナリシスがある(エビデンスレベルA)が、国内で主に使用されているNSAIDsが試験されているわけではないためエビデンスレベルはBとした。
 アウトカムについては、骨合併症の減少をアウトカムとしたビスホスホネートのメタアナリシス(エビデンスレベルA)で痛みの改善も示されているが、痛みが主要評価項目ではないためエビデンスレベルはBとした。消化管閉塞の再開通や嘔気・嘔吐をアウトカムとしたソマトスタチンやコルチコステロイドの複数の無作為化比較試験やメタアナリシスがある(エビデンスレベルA)が、痛みが主要評価項目ではないためエビデンスレベルはBとした。
 以上のように、本ガイドラインでは、エビデンスレベルを研究デザインだけでなく、研究の質、結果が一致しているか、研究の対象・介入・アウトカムは想定している状況に近いかを含めて総合的に判断した。
表1 エビデンスのレベル
A(高い) 結果はほぼ確実であり、今後研究が新しく行われたとしても結果が大きく変化する 可能性は少ない
B(低い) 結果を支持する研究があるが十分ではないため、今後研究が新しく行われた場合に結果が大きく変化する可能性がある
C(とても低い) 結果を支持する質の高い研究がない
表2 エビデンスのレベルを決定する際に参考とした研究デザイン
A 質の高い、かつ、多数の一致した結果の無作為化比較試験;無作為化比較試験のメタアナリシス
B 不一致な結果の無作為化比較試験;質に疑問のある、または、少数の無作為化比較試験;非無作為化比較試験* 1;多数の一致した結果の前後比較研究や観察的研究*2
C 結果を支持する質の高い研究がない
*1 クロスオーバー比較試験を含む
*2 無作為化比較試験の治療群または対照群を前後比較研究や観察的研究として評価したものを含む

目次にもどる