D-1
タイトル(日本語) 終末期症状の高齢者:人工的水分・栄養補給の倫理的考察
タイトル(英 語) The terminally ill elderly: Dealing with the ethics of feeding.
著者名 Miles SH
雑誌名,巻:頁 Geriatrics. 1985; 40: 112-120
目 的

延命の為の侵襲性のある人工的水分・栄養補給は倫理的に支持されるのかを症例をもとに考察する。

研究デザイン 症例報告
エビデンスレベル Not applicable
治療環境・施設名 記載なし
対象患者

例数:1

介 入

主要評価項目(定義)・
統計学的手法

結 果

 67歳、男性、肺癌の患者は、6週間の症状緩和目的の放射線治療のために入院した。患者は延命治療を拒否し、以前の暮らしに戻れる望みがない場合の心肺蘇生を強く拒否していた。患者は離婚しており、一人で暮らしていたが、母との交流を大切にしていた。患者の入院中、母は毎日見舞いに通った。母は、息子の世話をすることに対して強い責任感を抱いており、彼へのケア(特に食事の介助)に積極的に参加した。4週間の放射線治療の後、患者に癌の皮膚への転移が発見された。患者と母は化学療法や放射線療法は無益であるという説明に同意した。
 その後間もなく、特別な食事や、食欲増加を促す薬の投与の甲斐なく、患者の経口摂取量は1日500キロカロリー以下に減った。母はこの状況にひどく狼狽した。そして、患者は経鼻チューブの挿入に同意したが、挿入するとすぐに抜去してしまうという事態が3度続いた。患者は以後の経鼻チューブの挿入を拒否した。そして、彼は牧師とも相談し、延命治療が施されないことを希望する意思を表していた。
 3週間後、患者の疲労感は増強し、水分の経口摂取もしなくなった。患者の同意を得て経静脈輸液が開始されたが、その2日後昏睡状態に陥った。すると患者の母は経鼻チューブの挿入を希望した。
 患者は世話をしてくれる母親の存在を大切にしていた為、経口摂取が可能であった時点では、食欲がない時でも母の勧めに従って食べていた。患者の母の意向を尊重する為と、母と子の間で培われてきた母が息子の食事の世話をするという関係性を大切にすることを目的に経鼻チューブは挿入され、少量の人工的水分・栄養補給が行われた。それによって、患者がその18時間後に亡くなるまで、患者の母が死にゆく息子に対して抱いていた義務感を果たすことが出来た。

結 論 人工的水分・栄養補給が延命治療であることは他の医療的介入にも共通していえる事であるため、ある状況下においては正当に差し控えることが出来るはずである。医療的観点から人工的水分・栄養補給によって患者の延命を図る際には、患者の身体的状況、生命予後の見通しや、患者にとって負担になる可能性など、倫理面を考慮した考察が欠かせない。栄養補給をすることとケアをすることが感情的に強く関連するという現状を見逃すと、我々は人工的水分・栄養補給が基本的なケアであり、それを与える義務があるという家族の見解を理解できなくなる。このような理解がなければ、本症例の母のとったような栄養補給に対する強い希望は、患者が末期的な症状であることを否定するか、もしくは患者の自主性を侵害するものとして、誤って受け取られてしまう。本症例では患者は経鼻チューブを苦しい不適切な延命措置であるとして拒否していたが、患者が昏睡状態に陥ると経鼻チューブはもはや苦しく感じられないはずであるし、それを介しての人工的水分・栄養補給も延命にはつながらなかったはずである。
コメント 患者の家族の意思が患者自身の意思よりも尊重されること、人工的水分・栄養補給を延命治療と考える医療従事者と、手を握り頭をなぜてあげるのと同様の基本的なケアと考える母親の人工的水分・栄養補給に対する考え方の違いにの存在に目がを向けられている。
作成者 坂本沙弥香、浅井 篤